現在行っている脳画像研究プロジェクト

脳画像を起点とした機械学習

2023年度まで行われたAMED国際脳プロジェクトにおいて、多施設で得られた脳画像データを取り扱うためのハーモナイズ技術が整備されました(これまでの脳画像研究テーマ)。こうすることで、数千のデータを一つのデータセットとして取り扱うことができるようになりました。より多くの脳画像データを用いることで、これまで見えてこなかった精神疾患に関係する要因を明らかにできることが期待されます。また、近年一般的になったAI学習へあてはめることができるようになります。これまでの成果から、全体でおおよそ200以上のサンプルがあれば、機械学習が可能になるようです(Yassin et al. 2020; Zhu et al. 2022; プレスリリース)。

脳画像から疾患に関係する信号を取り出す

多施設データから得られる脳皮質厚のライフコース軌跡

より高精度にAI学習をさせるためにはまだやるべきことが残されています。ヒトの脳は加齢とともに萎縮していくことがよく知られていましたが、最近の大規模研究で、多くの脳構造指標が小児期から減少に転じることが分かってきました(Bethlehem et al. Nature 2022; Natureダイジェスト)。そしてこの減少度が、精神疾患の好発年齢にあたる思春期から青年早期にかけてより急峻であることもわかりました。具体的には、精神疾患による差の平均と、思春期での年齢が5歳異なる差の平均がおおよそ同じです。つまり、年齢による変化や、性別による差など、精神疾患と直接関係しない要因を正確に除けば、精神疾患による違いをより明瞭に表すことができるはずです。実際、国際共同研究によって大規模なデータを使った機械学習では、発症前の脳画像からのちの発症を予測できるような学習器を作成することができます(Zhu et al. 2024; プレスリリース)。



数理と臨床の共創による精神疾患サブタイプのヒト病態メカニズム解明

数理と臨床の共創による精神疾患サブタイプのヒト病態メカニズム解明

2024年度よりAMED脳神経科学統合プログラム(脳統合PG)が始まり、こうした流れをさらに発展させることができるようになりました。ここでは、脳画像に加えあらたに、臨床脳波、エピゲノム、全ゲノム解析の大規模データを取りまとめます。また、脳画像、臨床脳波においては、数千を超えるサンプルサイズで可能になる、サブタイプ分類を行い、精神疾患サブタイプの病態解明を目指します。多くの精神疾患は、精神科医の問診に基づくカテゴリーで、同じ症状を持つ方でも、その発症要因が異なる可能性は古くから指摘されてきました。しかし、これまでの脳画像研究では、あるカテゴリーに診断された方の脳画像と、健常対照の脳画像を比較することしかできず、そのカテゴリー内にある様々なパターンをさらに検証することはできませんでした。これまでAMED国際脳、革新脳で行ってきた脳画像解析技術と、数千の脳画像データを組み合わせることで、こうしたサブタイプ分類がようやく現実になり、サブタイプの病態解明を目指すことができます。



ヒト脳磁気共鳴画像で観察される精神疾患脳皮質体積変化の解明

ヒト脳磁気共鳴画像で観察される精神疾患脳皮質体積変化の解明

2024年度よりJST創発的研究支援事業(加藤パネル)でも研究を進めることができるようになりました。ここでは、そもそもなぜ脳構造指標が小児期より小さくなっていくのか、を大規模脳画像データから検討していきたいと考えています。例えば、脳神経細胞のほとんどは出生後より増殖せず、ただ減少していくことが知られており、皮質の厚みが小さくなることと関連付けられてきました。しかし近年では、この変化が、様々な要因で起こることもわかってきました。脳構造指標の変化の多くが生理的なもので、その一部に精神疾患と関連があるものが隠れているわけで、この変化の要因を探ることは重要な意味を持つと考えています。



参考資料

日本生物学的精神医学会の機関誌である日本生物学的精神医学会誌は、掲載論文を無料で公開しています。以下の3編をご覧いただけると幸いです。

小池進介: 大規模,疾患横断脳MRI研究を起点とした多階層データ解析. 日本生物学的精神医学会誌 2024;35(2):61-7.

小池進介: 1,000 計測以上の脳画像データの解析技法開発と臨床応用. 日本生物学的精神医学会誌 2023;34(4):171-8.

小池進介: 脳画像による機械学習解析を臨床現場に応用するために必要なこと. 日本生物学的精神医学会誌 2023;34(1):19-23.

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